ノガミくんに聞こえていないことが、ちょっとだけホッとした。言ったのは自分なのに。

タイミングよくきた電車は、色の神様からの使いかな。『そんなこと望んでやいないよ』なんて一度突き放しておいて、今更こんなことを言うのもおかしな話だし。

そうだ、私ちょっと、どうしかしている。こんな、色の、絵の話なんて、あの時から一切人にしていなかったのに。

プシューっと電車の扉が開く。乗り込もうとして、二人同時に足が動く。そしてその瞬間、真横から、きみの声が私を覆った。


「待つよ。ミウが話すまで。
その、"いつか" まで。
俺はミウを、待ってるよ」


乗り込んだと同時に扉が閉まる。
電車が動き出すまで、固まっていた私達。



私がノガミくんを見たのと同時に。
____ノガミくんが、私を見た。



がたんごとん、瞳が揺れているのは電車のせいかな。それとも、もうすぐそこまで出かかった涙のせいかな。


「____うん、待ってて」


電車が揺れる。私達の想いも、気持ちも、瞳も。それはきっと、きみも同じだね。

『待ってるよ』って言ったノガミくんの言葉が、頭の中にじんわりと広がっていく。あの、甘い甘いココアみたいに。

わたし、前を向こう。
待ってくれるきみのために、もっと、もっと、強くなりたい。

あの日のこと、あの時のこと、あの人のこと。忘れることなんてできないから、せめて、それに向き合えるように。


____ノガミくん。
私の色を取り戻してくれるひとがいるとしたら、きっとそれはきみだよ。わたし、もっと強くなれるかな。

もっと、もっと、もっと。

きみに近づきたいから、わたしはちゃんと向き合おうと思うよ。