ノガミくんはそれ以上何も言わなかった。ゆっくりと歩き出す。いつの間にか隣を歩いていて、会話はない。

星達だけが、私たちを見ている。

7分しかかからないこの道を、立ち止まっていた時間があるとはいえ15分もかかって歩いた私達。

私は馬鹿だなあ。こんなに熱くて苦しい気持ちを、もうとっくに気づいているのに、それを肯定なんてしたら駄目だと思うんだ。


定期をピッとして、ホームへ入る。もう冬の風は冷たくて、カーディガンを指先まで伸ばす。

電車がくるのを二人で待つ。会話まだない。でもこの沈黙が重くない。


「……ねえノガミくん」

「……なんだよ」


返答は来ないと思っていたのに、案外すんなりと沈黙は破られた。別に何かを言いたかったわけじゃないのに、何でかな。なんでこんなに、きみに伝えたいと思うんだろう。


「たくさんの色が、あつまって、あつまって、……そしたら、どうなると思う?」

「……たくさんの色を混ぜたら黒になるんだろ。美術で習ったよ」

「そうだね、黒になるってよく言われてる。でもね、本当は黒にはならないんだ。」


ノガミくんは、何言ってるんだ?とでも言うような顔をしている。そりゃあ、そうだよね。突然こんな話。


「混ざってできた色は、黒じゃないの。黒色は、他の色では決して作れないんだよ。私は、たくさんの色を重ねて、重ねて、そのときその場所でしか出来ない色を作るのが好きだったんだ」


だから、知っている。いろんな色を混ぜても本物の黒ができないことも。混ぜ合わせてできた色は、そのときその瞬間しか作り出せないことも。

でもね、だから私は、原色が好きなんだ。混ぜて混ぜて、いろんなもの生み出してくれるから。

なんだかそれは、きみにとてもよく似ている。混ぜても混ぜても、絶対に黒にはならなくて、そのときその瞬間しか、感じることのできないもの。

だからきっと、消えてしまうのが怖いのかもしれないね。あの時みたいに。


「……わたし、ノガミくんと出逢えてよかった。」

「……何言ってんだよ」

「ねえ、ノガミくん。
……いつか、聞いてくれる?」


後半の言葉は、電車が来た音でかき消されてしまった。目の前にゆっくりと、電車が止まる。