「冗談じゃないけど」
え、と。声にならない言葉が体に残る。ノガミくんは不機嫌そうに、でもまっすぐに、私を見下ろしていた。
「てか余裕すぎるってなんだよ」
はあ、と一回ため息を吐いてから、ノガミくんはゆっくりと、私の肩に頭を下ろした。
____あの時と、同じだ。
額からノガミくんのぬくもりが伝わってくる。首に当たる髪の毛はふわふわで柔らかい。
「だってノガミくんが……」
「冗談じゃねえし、余裕なんてねーよ」
ああ、どうしよう。心臓が鳴り止まない。ノガミくんの声が、耳元でささやかれる。私は自分の服の裾をぎゅっと握りしめる。
「ミウが困ると思って普通にしてんの、わかんない?」
ああもう、どうしよう____。
普通にしててくれたのは、私が困るから?
面倒くさそうだった文化祭の案を真剣に考えてくれたのは私のため?
ねえノガミくん。
ノガミくんことを知れば知るほど___私、ノガミくんに惹かれてしまうよ。
「の、ノガミくん、わかったからっ……」
ノガミくんの肩を押す。離れるノガミくんの体。私が無理やり引き剥がしたからか、ノガミくんはまた不機嫌そうだ。
「と、とりあえずは、文化祭頑張ろう?ね?」
「………わかってるっつの、アホ」
ノガミくんは不機嫌そうに、前を向いて歩きだす。わたしはその横に駆けていって。
いつの間にか、この隣に慣れてしまったんだなあ、って。ノガミくんの想いが冗談じゃないってことは、少しだけ、わかった。
それと同時に、自分がどうしようもなくノガミくんに惹かれていることも、この胸の高鳴りと、全身の熱さで、認めないわけにはいかなかった。