あの時、肩に触れたノガミくんの額の熱さと、私のことを『好き』だと言った声が、今でも私の頭の中をぐるぐる回っていた。


「ミウ、最近変だけど何かあったの?」

「へ、変ってなにが?!」

「挙動不審」


いつもの窓際でのお弁当。カナは疑うような目で私を見つめた。それもそのはず。

だって、あんなことを言ったノガミくんは、会うことさえ緊張してバクバクだった私とは正反対に、何気ない顔で次の日からも美術室にやってきたのだ。

それから1週間、何事もなくいつも通りの毎日が過ぎて。正直あの時のことは夢だったんじゃないか、なんて思い始めている私。


「何にもない何にもない!」

「ふうん……ノガミに何かされたのかと思った」


カナがお弁当を箸でつつきながら真面目にそう言うから、私は飲んでいたいちごミルクが喉にひっかかってむせてしまった。カナってば変なところで勘が鋭い!


「げほっげほっ……な、なにもないから、ほんとに!げほっ……」

「ちょ、大丈夫?!」


カナが私の背中をさすってくれる。カナの手はあたたかい。何度この手に救われてきたのかわからないほど。

だから。いままでカナには何でも話してきた。ノガミくんの話だって、笑ってカナに話せばいいのに。


あの時のノガミくんの顔を思い出すと、私はどうしてもそれを口にすることができなかった。