ピタリと私の手が止まった。同時に大きくなった心臓の音が静まったこの空間に響いてないか不安になる。
……ノガミくんの、声だ。
なんで返事をしたらいいのかわからなくて、そのまま固まる私。ダンボールで仕切られた壁は思いの外厚いみたいだ。私と、ノガミくんの距離みたい。
「……絵の具のにおいが、する」
ノガミくんはちょっと驚いたようにそう言った。そして、よかった、って泣きたくなるくらいあったかい声で呟いた。
顔も、姿も、何も見えないのに。この壁の向こう側のノガミくんは、きっと私が絵を描いていることに気づいたんだよね。
ノガミくんの『よかった』って言葉が、冷たかった空間を一気に暖めたみたいに私の心に刺さった。ノガミくん。……ノガミ、くん。
何も言わない私に、ノガミくんもそれ以上何も言わなかった。ガサゴソと音がしたから、きっと自分の空間に入ってまた作業を始めたんだろう。
私が、何故この行事に参加してくれるのかって聞いたとき。
『ミウがいるから』って、ノガミくんは言ったね。
ノガミくん、私ね、ノガミくんに伝えたいことがたくさん、たくさんあるよ。伝えなきゃならないことが山ほどある。全部のキッカケをくれたきみに。
私がちゃんと、この想いを描けたら。
きみは、私の話をもう一度聞いてくれますか?もう一度、きみの手を掴んでも、いいですか?