もう丸1年も使っていない美術道具はほとんど使い物になんてならなかった。

アイコちゃんが私に手渡した絵の具も、小学生や中学生が授業で使うようなチューブが数十本。紙はただの厚紙しかなかった。


でも、それで充分だ。


ハヅキ先輩とキャンバスを並べていた時とはまるで違うけど、気持ちは少しだけあの時と似ている。描きたいという気持ち。世界が輝いていると思う気持ち。


毛がパサパサになった平筆を水でならす。私が一番始めにここで抽象画を描いた時も、確か何もわからずただの厚紙に色をぐちゃぐちゃと並べたんじゃなかったかな。


1年ぶりに、ここに立った。
真っ白な紙の前。色と筆を持った私。


平筆の持ち手の部分ははげていて、絵の具を出すパレットは薄汚れていてところどころ欠けている。


どうして今、ここに立っているんだろうかとふと思う。

それは、私が周りに支えられてきたからだ。そして私は、やっぱり、あの感覚を忘れることなんて出来ないんだ。


何の取り柄もない私が、
私の気持ちを表現できること。


それは、言葉じゃなくて。きっと、描かないと何も伝わらないの。だって私にはこれしかないって、今更そう強く思うんだ。