夕方の美術室とはまた違った空気を吸い込んだ。開けた窓から秋が飛び込んできたみたいだ。
枯れかけた葉っぱの匂い。どこからかキンモクセイの香りもする。窓の外の空は、四角に切り取られた青に白い雲がよく映えてるなあって。
久々に足を踏み入れた美術準備室は思いの外綺麗だった。1年もほかっておいたのに、ハヅキ先輩の絵や前から置いてあった粘土像なんかがゴロゴロ転がっていたけど、ホコリひとつかぶっていない。
もっと奥にしまってあるはずの私の絵たちは、見るのをやめた。昔の気持ちに左右される必要なんてどこにもないから。
絵の具が腐ったようなニオイ、ちょっと懐かしさを感じて胸がいたくなる。誰もいなくてよかったなあ。今頃カナが、数学担当の小坂先生に野山は保健室ですなんてウソをついてるんだろうな。
懐かしい戸棚を開けると、学校に設備されている画材用具が整頓もされないで詰め込まれていた。私も初めはコレを使ってたんだよなあ。のちのち、自分でいろいろ揃えることになるんだけどね。
使えそうなものをひとつひとつ手にとる。こびりついた絵の具の色が、いいようにも悪いようにも変色してるのをみて、時が流れたことを実感した。