その後のことは、あんまりよく覚えていない。ただ、ノガミくんが、ずっと私の名前を、呼んでいて、私はそれを無視して、駆け出していた。


私は、ひとりきりの廊下を、帰り道を、ただひたすらに走った。


傷つけた。また、大切な人を、傷つけた。

また、自分から、大切なものを、手放した。


でも多分、これでいいんだ。これで、いいの。だってわたし、あのときからもう、救われることなんて望んでいないよ。

もう、私があのとき、私の世界を捨てたときから、もう何も、望んでなんていない。大好きだった先輩も、絵も、美術部も、なにもかも、無くなって。いつも支えてくれたカナやタケちゃんにだって、私は本当のことを話せなくて。


私が、あの真っ黒な青の水の中から、すくい上げられるわけ、なかったのに。
そんなのずっと、わかっていたのに。



____どうして、涙が止まらないんだろう。



どうしてきみに、あの時のことを話してしまったんだろう。どうして一瞬でも、きみに手を伸ばしてしまったんだろう。


どうして、こんなにも、きみを愛しいと、思うんだろう。


溢れた涙で前が見えなくて、石につまづいた私はその場で派手に転んだ。ずしゃっ、と大きな音がして、後からやってくる痛みにさらに涙が溢れてくる。

今日の夕日は真っ赤で、起き上がった私の影が細長く伸びていて。


「……っ……」


泣くなよ、私。だって自分で、手放したんじゃない。

ヒリヒリと痛む両手をぎゅっと握る。止まらない涙がアスファルトに落っこちて、黒いシミをつくってた。


「……止まってよっ……」


止めようとしたって、嗚咽となるだけだった。ひっくひっく、ああ、なんてカッコ悪いんだろう。転んで、泣いて、擦りむいて、泣いて、泣いて。


______ノガミくん。
わたし、きみのことが、こんなにも、すきでした。