いつしか右手でスマートフォンを持ち電話をしながら、左手でデジタルカメラを操り写真を撮っていた。
家を出る前、服を選んでいる時に見つけた小さなデジタルカメラ。
黒くて小さなそれは、父がかつて写真好きだった母に送ったものだそうだ。
「俺は写真に興味ないから、水樹使うか?」と以前言われたのは良いのだけど、機会がなくずっと置かれたままだったんだ。
折角貰ったのだから、色々な風景を素人なりに切り取ってみようと思って持ってきた。
勿体ないからと言う理由以外にも、理由を付けてみた。
「どうしてさっきからデジカメで写真撮っているかわかる?」
『ううん…』
「いつか僕たちが機械越しじゃなくて、面と向かって話せたときに見せたいんだ。
これが僕たちがまだ出会っていない時に見つけたものだよって。
僕たちが今繋がっていることを、形にして残したいんだ」
『……」
「完全に残すことは出来ない。
でも写真に撮ったり、見逃してしまうものを見つけたりすることで、存在を証明させたい」
『…綺麗』
「え?」
『男の人に対して言うのは変かもしれないけど、水樹くん凄く綺麗だよ』
「僕が?」
信じられなかった。
上手く誰かを信頼し、信じることが出来ない僕が、綺麗だって?
『うん。
わたしは形として残すなんて考えなかった。
いつも目に見えるものが当たり前だって考えて、見逃していることばかり。
いつもは見逃していたとしても、存在を証明させるために残そうとする水樹くんは綺麗だよ』
見逃さないようにしてくれたのは、心ちゃんがいるから。
君がいるだけで、僕の世界はあっという間に色づくんだよ。
「じゃ、心ちゃんもやってみよう」
『え?」
「僕も、写真越しで良いから、心ちゃんの世界が観たい。
僕だけ観るのは、勿体ないから」
『うんっ』
僕を綺麗だと言ってくれた君の世界も。
きっと綺麗だ。
そしてそれ以上に、君は綺麗だよ。
見たことがないけど、心の綺麗さはわかるよ。



