ショッピングモールへの人通りが少ない最短距離を歩いていると。
「ワンッ」
赤い屋根の家の庭に、柴犬がいて尻尾を振っている。
犬、というか動物全般が好きな僕はすぐさま心ちゃんに教えてあげた。
心ちゃんが住む3年前にも犬はいたみたいで、この可愛さを共有出来て良かった。
心ちゃんの前にいる柴犬は、お昼寝中みたいだけど…。
「ふふ、可愛い~」
『犬好きなの?』お
「動物全般は基本好きだよ。心ちゃんは?」
『わたしも結構好き。でも爬虫類とかはちょっと苦手…』
「そうなんだ。可愛いね心ちゃんは」
爬虫類と口にした心ちゃんは本当に苦手みたいで、苦笑いが聞こえる。
素直に可愛いと思った。
正直、柴犬以上に可愛い。
心ちゃんは何故か照れちゃったみたいで、『い、行こう!』と緊張したような声で言ってくる。
僕は犬へ挨拶をし、心ちゃんと同じ道を歩き始める。
心ちゃんと他愛もない話をしながら歩いていると、面白いものや変わったものがよく視界に入る。
お世辞でも上手いと言えないような絵に、野良猫に、道の割れ目に健気に咲いている花。
どうしてだろう。
心ちゃんと歩くだけで、この世界が綺麗な物に見える。
綺麗だなんて思ったのは初めてだった。
僕が見てきた短い世界は、汚いとは言えないけど、綺麗とも言えなかったから。
家と大学を往復し、少し家で休んだらアルバイトに行き、夜遅くに帰宅する。
家に居るのは血が繋がったらしい父だけど、接し方は忘れてしまった。
大学での友達は全員優しくて面白いけど、僕が知らない話を多くする。
太田や筧さんたちが高校時代のことを話す度、世界が切り取られてしまったように感じる。
同じ空間で、同じ時間を共有しているはずなのに、僕だけ世界が違う。
ハッとしてイチから説明される度、世界は元に戻るけど申し訳なさが残る。
距離を開けたいけど、開けてしまったら本当に世界が変わってしまう。
ちっぽけな、僕の小さな世界。
汚くないけど、綺麗だとはどうしても思えない世界。
でも、不思議だな。
心ちゃんと話すと、何故だかとても嬉しくなる。
心ちゃんと初めて話し、繋がったあの日の夕焼け空のように、綺麗になれる気がした。
空間も、時間さえも違うはずなのに。
ちっぽけな世界が少しだけ色づくと思うのは、どうしてだろうね。