「僕だって心ちゃんってちゃん付けだし。
だから、水樹くんはどう?」

『水樹くん…?』

「そう水樹くん。
人前でスマホ出さないんだったら僕の名前を出すこともないし。
好きな人に彼氏がいるって勘違いされなくて済む!』

『春田さん余計です…』

「ノンノン春田さん。イエス水樹くん」

『……』


心ちゃんが黙り込む。

僕は調子に乗ったことを咳払いでごまかした。




「水樹くんって呼んでください、心ちゃん」

『……み、ずきくん』

「ぎこちないなぁ…まぁ慣れて行けば良いか」

『べ、勉強教えてよ水樹くん!』

「良いよ。でもねその前に」



時計を見て気付いてしまった。

もうすぐでアルバイトの時間だということに。

そのことを言うと、心ちゃんは『酷い!』と怒り出してしまった。



「ごめんごめん。
今度何か埋め合わせはするからさー」

『どうやって埋め合わせするの!
わたしたち会えるかどうかわからないのに!』

「会えるよ」



正直不安はある。

だけど僕の声は無意識のうちに真剣だった。



「会えるよ、僕たちは。
というか、絶対に僕が会えるようにする」

『どうやって…』

「策はまだない。
でも、僕たちは3年しか離れていないんだ」

『3年も離れているじゃない…』

「たかが3年だよ。
年号だって変わっていないし歴史だって早々変わっていない。
僕なりに調べてみたけど3年の間に戦争とか地震とか大規模なものもない」



太田達に聞いたり、自分なりにネットを使って調べたり。

何も起こっていなくて、良かった。

僕たちが会える可能性は、“まだ消えていない”。



「僕たちは会えるよ」

『水樹くん……』

「心や自分の意思を持たないスマホが次元を超えたんだ。
心や意思を持った僕らが会えないわけがない」

『……』



本当僕のスマートフォンくんに聞きたいよ。

どうやって君は時空を越えたの?と。



僕たちは勉強を教える“約束”をし、通話を終えた。

僕は31年にいて、心ちゃんは28年に生きている。

それが本当だと言うことを、小さな機械が教えてくれた。




「よし!バイト頑張るぞー!」