延々と探し、遂には自宅近くの駅まで来てしまったけど、スマートフォンは見つからない。
交番や途中で見つけた個人商店の店主に聞いても、落とし物を預かってはいないらしい。
迷った末、僕は公衆電話に行き、自分のスマートフォンに電話をすることにした。
もしかしたら誰かが拾ってくれているかもしれないから。
長く続く呼び出し音が、プツリと切れる。
「あ、出た!」
機械越しに聞こえてきたのは、ちょっと低めの女性の声だった。
多分僕よりも若いかな。
『あの、わたしこのスマホを道で拾ったのですが…』
「それ僕のなんだよね!うっかり落としちゃったみたいで。
拾ってくれてありがとう!感謝します」
『いえ…たまたま拾ったので』
「どこに落ちてました?」
彼女が教えてくれた場所はここから近い。
駅にいることを伝えると、彼女は届けてくれるという。
優しい人に出会ったなぁと思いながら、駅で来るのを待っていた。
数分待ち、そろそろかなと思い電話をかける。
「そろそろ駅着く頃だなって思ったんですけど、今どこですか?」
『今駅に丁度着いた所です』
「じゃ落ち合いましょう。駅のどこにいますか?」
『東口の外にある公衆電話の前です』
「東口の公衆電話?僕、今そこの電話ボックスの中からかけているんですよ!」
『……え?』
彼女の驚いたような声が聞こえる。
「もしもし?あの…もしもし、どうされましたか?」
『…公衆電話の中に、人…いませんけど…』
「え?」
人がいない?そんな馬鹿な。
僕は公衆電話のボックス内にいる。
ボックスを出て、辺りを見渡した。
「あの…どんな格好していますか?」
『紺色のブレザーに赤いリボンで紺色のスカートで、少し茶色っぽい髪で、横で三つ編みしています。
靴は茶色のローファーです』
彼女の特徴と合う人を探すが見当たらず、僕は『……え』と呟いた。
学生らしいが、学生服姿の人はいない。
「ほ、本当に東口の公衆電話の前にいるんですか?」
『います…いますって。あなたはどんな格好していますか?』
「僕は黒髪で、青いジャケットを羽織っていて、中のシャツは黒くて、ジーパンで茶色い靴を履いています」
『ど…いうことですか…』
「僕もよくわかりません…」
どうやら彼女の前にも僕と特徴が一致する人はいないらしい。
本当に今いる場所が駅なのか、公衆電話の前なのか確認し合うも、やっぱり今いる場所は同じだ。
少し嫌な予感がして、僕は変かと思われるかもしれないけど聞いてみた。
「……あの、今、平成何年の何月ですか」
『今は、平成28年の4月25日です』
「……平成、にじゅう…はち?」
そんな、まさか。
『はい……』
「…僕の所は、平成31年…です」
『え……』
「つまり僕たちの間には…3年の誤差があるってことです…」
どういう絡繰りかはしらないけど。
どうやら僕のスマートフォンは時空を超えてしまったらしい。