「こんなに暑い中お疲れ様。はい充電器」
「ありがとう!」
希和のスマートフォンの充電器を借り刺そうとするも、水樹くんのスマートフォンに刺さらない。
「その3年後のスマホの充電がなくなったの?」
「そうなの…」
「んー、じゃあちょっと待ってて」
希和は部屋を出て行き、段ボール箱を抱えて戻ってきた。
床に置いた段ボール箱の中には、大量の種類が違う充電器が入っていた。
「これお父さんが家に持ち帰ってきた充電器なの。
もう売られていない機種や新発売の機種まで、幅広い充電器があるよ」
「…使って良いの?」
「まぁ内緒にしてね」
「ありがとう」
ひとつずつ充電器を水樹くんのスマートフォンに刺していくけど、どれも合うのがない。
結局全滅だった。
「水樹くんと繋がれる手段はこれしかないのに」
電話を無視しておいて調子が良いことを言っていると、自分でも思うけど。
やっぱり水樹くんとは繋がっていたい。
「そういえば、アイツの名前、水樹だったよ」
「え?」
希和が思い出したように言い、机の上に置いてあるファイルを渡してきた。
ファイルの表には、土木沢高等学校バスケ部記録と書かれていた。
「これ、部員の名簿なんだけど、ほら」
「あっ……」
そういえばずっと知らなかった、彼の下の名前。
ラインも電話帳も上の名前だったから。
周りからも名字で呼ばれていたし。
【2年 奥村水樹】
「聞いてみたら、下の名前が女の子っぽいからあんまり好きじゃないんだって。
だから皆にも上の名前で呼ぶよう言っているみたい」
「奥村…水樹」
「名字春田じゃないから、偶然だとは思うけどね。
別に珍しい名前じゃないし。
それに奥村、どっちかっていうと理系でしょ」
「……」
「春田さんって、3年後の人なんだよね。
ということは、今あたしたちと同い年かぁー。
高校時代どんな人だったか聞いているの?」
「教えられない、無理だって言われたんだ」
「何それ、ミステリアス」
「知られたくないのかもしれないから、それ以上聞けなかったよ」
春田水樹と、奥村水樹。
気になっているふたりが、両方ミズキなんて。
偶然って希和は言うけど…。