希和と別れ、帰り道を歩く。

この間ショッピングモールに行く時に見た柴犬は、犬小屋だけ残され、犬はいなかった。

夜になるときっと家に入るんだ、と考えながら歩き、ふと空を見上げた。




梅雨が終わりあっという間に暑い夏になった。

空は少し曇っていて、夕焼けが見えなかった。

蝉の声はどこか遠くで聞こえるけど、何だか寂しい。

もやもやした感じが、自分に似ているからかな。



『~♪』



変わらない軽快な音楽。

わたしは「もしもし?」といつも通り出た。



『…ここちゃん?』



探るような、低い水樹くんの声。

最後に電話したのは、土曜日だった。



「水樹くん、久しぶり。
この間は切ることになっちゃってごめんね」

『ううん、平気。気にしないで。
それより、大丈夫?』

「うん。
水樹くん、時間ある?」

『今日はバイト休みなんだ。
どうぞ、好きなだけ話してください』

「じゃお言葉に甘えて」



わたしは土曜日から今まで何があったのか、全て水樹くんに話した。

かっちゃんと希和の名前は伏せたけど。



『良かったね。親友ちゃんとますます仲良くなれて』

「うん。
これも奥村のお蔭だよ!」

『……奥村?』



初めて、水樹くんの前でわたしの名前以外の名詞を出した。



「うん。
バスケ部員で、親友と話し合うよう言ってくれた人」

『へぇ、良いことするね、その人。男?』

「男だよ。
あとわたし…奥村に、告白されちゃったの」

『告白!?返事は』

「していないよ。
まだ気持ちの整理とか出来ていなくって」



わたしが今1番会いたいのは、誰よりも水樹くんだ。

でも、好きなのかどうかは…わからない。

そのことは言えないから、整理が出来ていないと説明することにした。



『そっか。
ここちゃん、後悔しない道を選んでね』

「ありがとう。
ところで、ここちゃんって何?」

『可愛いでしょ、ここちゃん。
心ちゃんより言いやすいかなって、可愛いし』

「2回も可愛い言わないで良いよ…」



ふと、大学には女子もいるのだと思い出す。

本人曰く口下手だから、女子とは話さないと言っていたけど。

もし話した時、可愛いなんて気軽にいつもみたいに言っていたら。



「水樹くんって、他の女子にも可愛いとかって言っているの」

『言うわけないよ。ここちゃんだけ』

「……そっか」



何だか安心する。

もし他の女子にも言っていたら…ちょっと嫉妬しちゃう。