話し合うと決めたのに、話しかけられないわたしは、臆病だ。
希和はかっちゃんと付き合っている。
昨日見た光景が、夢であってほしかった。
カタンッ
移動教室で使う教室が集まっている廊下には人がいない。
わたしの足音だけが響いていたけど、途中で違う音が混じる。
急いで振り返ると、わたしが今歩いてきた道にスマートフォンが落ちていた。
白じゃない、黒のスマートフォンが。
わたしは初めて拾った時と同じように、しゃがみ込んで黒いスマートフォンを拾う。
希和に見つからないよう、肌身離さずポケットに仕舞っておいたんだ。
「…裏切り者ってわたし言ったけど、わたしだって裏切り者だ」
わたしだって、嘘をついた。隠し事をした。
信じてもらえないと考えて、希和にスマートフォンは無事持ち主に返ったと嘘をついた。
信じてもらえない可能性の方が高いけど、わたしだって隠し事をしていた。
思えば希和は言えただろうか。
かっちゃんと付き合ったなんて、かっちゃんに片思いをしていたわたしに。
奥村は、希和も悩んでいたと言っていた。
それは、わたしに言うか言わないかで迷っていたのではないか。
確信はないけど、わたしの親友のことだ。
「…謝らないと、わたしも。希和に」
わたしは同じようポケットに仕舞っておいた自分のスマートフォンを取り出し、希和にラインを送った。
放課後、ふたりきりで話したいと。
すぐに既読がつき、間もなく返されたメッセージには、了解とだけ書いてあった。



