「…ねぇ、辛くなかったの」
「え?」
「わたしには好きな人がいるんだよ。辛くなかった?」
「辛かったよ。当たり前だろ。
だけど、さっき言っただろ?
俺は、宍戸先輩が好きだって笑う春沢の顔が好きだったんだ」
「……変な人」
「しょうがねぇだろ。そこに惚れたんだから」
奥村は息を吐くと、座ったままわたしを見上げた。
「答えはすぐに出さなくて良い。
というか俺も勢いで、泣いている春沢が放っておけなくて告ったけど、本来なら駄目なタイミングだ。
どんな答えを出したとしても、俺は受け止めるから」
「…うん、ありがとう奥村。
ごめん、わたしも今上手く状況が整理出来ていないから、返事はまた今度で良い?
必ず、わたしの答えを出すから」
「いつでも待ってる」
奥村は笑って立ち上がると、わたしの頭をぽんぽんと撫でる。
手が離れた瞬間、チャイムが鳴った。
「俺先に行くから、春沢は後から来い。
一緒に行ったら怪しまれるだろうから」
「うん」
「あと」
「何?」
「お節介なバスケ部員から情報。
春沢だって辛かったかもしれねぇけど、アイツだって相当悩んでいたぜ」
「アイツ…?」
「お前ら親友だろ。
絶対話し合えば仲良くなれるって」
「奥村…!」
「それじゃ、ゆっくり来いよ!」
バタバタ行ってしまい、間もなく背中が見えなくなる。
わたしは奥村が行った先を見て、呟いた。
「……ありがとう、奥村。
わたし、希和とちゃんと向き合ってみるから…!」



