夏の日、僕は君の運命を変える

帰宅ラッシュが近づいているからか、駅には向かう人ややってくる人で溢れかえっていた。

着いたことを連絡しようと思い、黒いスマートフォンをポケットから取り出し電源ボタンを押し電話をかけようとしたら。



「……あれ？」



何度電源ボタンを押しても、画面が明るくならない。

電源が切れてしまったのかも、と長押ししてみるけど明るくならない。

人々の靴音と話し声を聞きながら、スマートフォンと向き合っていると。


『～♪』


再びあの軽快な音楽が鳴り出す。

明るくなった画面に書かれていたのは、さっきと同じ公衆電話。

電源つくんじゃん……と思いながらわたしは電話に出た。



『そろそろ駅着く頃だなって思ったんですけど、今どこですか？』

「今駅に丁度着いた所です」

『じゃ落ち合いましょう。駅のどこにいますか？』



わたしは辺りを見渡し、公衆電話があることに気付いた。



「東口の外にある公衆電話の前です」

『東口の公衆電話？僕、今そこの電話ボックスの中からかけているんですよ！』

「……え？」



わたしは彼が嘘をついているのだと思った。

だって、ふたつある公衆電話の中には誰もいないのだから。



『もしもし？あの…もしもし、どうされましたか？』

「…公衆電話の中に、人…いませんけど…」

『え？』



向こうからガチャという音が聞こえる。

公衆電話のボックス内から出てきた音だ。



『あの…どんな格好していますか？』

「紺色のブレザーに赤いリボンで紺色のスカートで、少し茶色っぽい髪で、横で三つ編みしています。
靴は茶色のローファーです」



自分の特徴を話すと、彼は『……え』と呟いた。



『ほ、本当に東口の公衆電話の前にいるんですか？』

「います…いますって。あなたはどんな格好していますか？」

『僕は黒髪で、青いジャケットを羽織っていて、中のシャツは黒くて、ジーパンで茶色い靴を履いています』



辺りを見渡すけど、同じ格好の人がいない。



「ど…いうことですか…」

『僕もよくわかりません…。東口ですか？』

「東口です。階段の所に東口って書いてありますもん」

『階段……あぁ、僕も駅の階段に東口って書いてあります』

「駅、本当に土木沢（とぎさわ）駅ですか？」

『はい…土木沢駅東口公衆電話にいます！』



同じ場所にいるはずなのに、彼の姿が見えない。

機械越しだけど、ちゃんと彼の声は聞こえているのに。



『……あの、今、平成何年の何月ですか』

「今は、平成２８年の４月２５日です」

『……平成、にじゅう…はち？』

「はい……」

『…僕の所は、平成３１年…です』

「え……」

『つまり僕たちの間には…３年の誤差があるってことです…』




綺麗な夕焼けの下わたしが拾ったのは、

３年後の未来と繋がるスマートフォンだった。