出るべき、だろうか。

それとも、このまま切れるのを待つか。

再び考えているうちにも、音楽は鳴り響く。

まるで、わたしに出てほしいとでも言うように。



そうだ。

出て電話をかけてきた人に、持ち主を聞けば良いんだ。

それで届けてあげれば良い。

スマートフォンを落とすのだから、きっと遠くに住んでいる人じゃないだろうし。

市内のことなら生まれ育った街だから、ある程度のことはわかる。

わたしは画面をタップし、耳に当てた。



『あ、出た!』



機械越しに聞こえてきたのは、低くてでも柔らかい声音の男性だった。

わたしが出たことに喜んでいるみたいだ。



「あの、わたしこのスマホを道で拾ったのですが…」

『それ僕のなんだよね!うっかり落としちゃったみたいで』


まさかの持ち主からの電話。

まぁ手っ取り早いから良いか。

…あぁ、だから公衆電話からの電話だったんだ。



『拾ってくれてありがとう!感謝します』

「いえ…たまたま拾ったので」

『どこに落ちてました?』



明確な住所までわからなかったので、わたしは近くを流れる川に架かる橋の名前を告げた。



『あ、すぐ近くだ!僕駅にいるんですよ!』

「じゃ、届けに行きましょうか?」

『本当?お願い出来ますか?』

「はい。駅に着いたら連絡しますね」



通話を終え、わたしは駅へ向かって歩き出す。

駅と正反対の家へ向かっていたけど、言いだしっぺがいかないわけにはいかない。

拾ったのだからそれぐらいしなくては。



「……本当、綺麗」



スマートフォンを拾う前と同じよう、空は茜色に輝いていた。