『…嘘、だよね。冗談だよね』

「嘘じゃない」



嘘であってほしかった。



『嘘でしょ。嘘だって言ってよ』

「嘘じゃないんだ。
ちゃんと調べたんだから、嘘じゃない」

『調べたって、どうやって』

『…それは……』



言える?僕が奥村水樹ですって。

言う?記事の内容を。

でも、言おうとしたら声が出なかった。



『言えないんでしょ?
じゃあ嘘だよ』

「ここちゃ……」

『嘘だよっ!!』



嘘であれ、と思うのは僕の我が儘でしょうか。



『わたしは今、生きているの!
死んでなんていないの!』

「ここちゃっ…」

『出鱈目言わないで!
水樹くんがそんなことを言う人だと思わなかった!
冗談が過ぎるよ!』

「嘘じゃない!
嘘なんて僕はここちゃんについていない!
本当なんだ!!」

『……きらい』

「ここちゃんっ…」

『きらい、嫌い、嫌い!
水樹くんなんて大ッ嫌い!!』




ボスンッと、鞄の中にスマートフォンが投げられる音。

僕は必死にここちゃんの名前を叫んだけど、ここちゃんの声が聞こえることはなかった。




「ここちゃんっ…ここちゃっ……どうしようっ…!」




繋がる術を失ってしまった。

このままじゃ、8月25日にここちゃんは……。




「考えろ…考えろ……ここちゃん救うんだろっ…」




締め付けるように痛む頭を押さえながら、必死に考える。

彼女を守れるのは、僕だけだ。