大学の構内を歩きながら考える。
僕のことを知っている人を。
この大学内に入っている同じ高校からだと言う人は、筧さん・宍戸先輩・太田。
他に友達はいたかわからないけど、どっちにしても連絡手段がない。
事故の時壊れてしまったスマートフォンがあれば、何か手掛かりがあったかもしれないのに。
「はあ!?水樹が!?」
そこにいた誰もが、勿論僕も振り向いた大きな声。
聞き間違うはずない、太田の声だ。
声がした方に静かに向かうと、そこには太田だけではなく、筧さんと宍戸先輩もいた。
気付かれないよう、死角に隠れて話を盗み聞きする。
「声がでかいよ馬鹿!」
「す、すまん…。
でもまさか水樹があの場所にいたなんて」
「何か調べているみたいだよ。あの事故について」
「希和ちゃんと太田はどうするつもり?
春田が心ちゃんのことを知ってしまったら…」
……心、ちゃん?
聞き間違いかと思ったけど、宍戸先輩の口から出たのは心ちゃんだった。
同じ名前の人、いたんだ…。
「絶対自分のせいだって責めるでしょ…」
「そういえばあの日、春沢を誘ったのって水樹なんだよな」
「うん。
あたし心から春田…じゃない、奥村から告白されたとも聞いたよ」
「あの事故現場に俺の知り合いいたんだけど、凄かったみたいだよ。
春田…奥村か、心ちゃんの名前必死に叫んで。
自分と心ちゃんの立ち位置が逆だったら助かったのにって」
「春田が知ったら本当にマズいよね…。
自分が殺したとか言い出すかもしれないよ」
ズキン、と頭が痛い。
何を話しているのか全くわからない。
だけど…今話しているのは、奥村について。
奥村ってのは母の名字で、以前の僕の名字…。
「でも、俺思ったんだけど、水樹性格変わったよな」
「記憶失うと性格変わるって聞いたことあるけど、あそこまで変わるとはね」
「自分のこと俺だって以前言っていたし、あんなに柔らかくなかったよな」
「前はもう少しクールで…でも優しいのは変わりないよね」
「あと1番顕著なのが理系から文系だろ。
あれ、どういう心境の変化だったんだろうな?」
「え?太田なら知っていると思ってたけど」
「聞いても文系に興味が出てきたーとかって。
講義の間にも本読んでいるし。
本嫌いとか言っていたけど、本当変わったな。
ありゃもう別人だ」
「だからこそわかっちゃいけない。
知られちゃいけないの、あの事故のこと」
「触れないようにしておこう。春田の前であの事故は」
宍戸先輩が言い、ふたりはそれぞれ頷いた。
「……っ………」
はるさわ、こころ。
同じ名前の高校生2年生と関わっている。
かっちゃんってあだ名の人がいて、希和という名前の人がいて。
宍戸先輩はかっちゃんって呼ばれるのを嫌って、筧さんの下の名前は希和。
……偶然にしちゃ、出来過ぎないか?