「あれ?希和ちゃんに心ちゃん。どうしたの」
「宍戸先輩!」
「かっちゃん!」
バスケ部部室にノックもなしに現れたのは、宍戸勝志(かつし)、通称かっちゃん。
茶髪が似合う爽やか系イケメンで、バスケ部部長のひとつ上の3年生だ。
「宍戸先輩どうしたんですか?今日は部活じゃないですけど…」
「昨日練習した時に忘れ物したっぽくて、取りに来た。
希和ちゃんはボール拭き?」
「そうです!」
「お疲れ様。いつもありがとうね、マネージャー。頼りにしてる」
「ありがとうございます!これでもマネージャーですからね!」
「心ちゃんは?どうしてここにいるの?」
わたしを見てにこりと笑い、チャームポイントであるえくぼを見せるかっちゃん。
心臓が高鳴っているのがバレないよう、わたしは冷静に噛まないよう話した。
「希和の手伝いだよ。マネージャーの1年生がお休みみたいで」
「そうなんだ。心ちゃんもありがとうね」
「わ、わたしはただの助っ人だから…希和の方が頑張っているよ」
「だって希和ちゃん、褒められているよ。良い友達持ったね」
「心はあたしの1番の親友ですからね!」
「希和…ありがと」
希和の言葉に思わず恥ずかしくなっている間に、かっちゃんはロッカーからタオルを取り出した。
「それが忘れ物ですか?」
「そうだよ。あって良かった」
「良かったですね見つかって!」
「うん」
希和の笑顔に、つられるよう笑顔になるかっちゃん。
わたしはかっちゃんの明るい笑顔が好きなんだ。
「そういえば宍戸先輩見てください」
「黒のスマートフォン?これがどうしたの」
「これ、心が拾ったらしいんですよ」
かっちゃんの笑顔に見惚れて危うく自分の世界にいきそうだったわたしは、希和の言葉で我に返る。
希和は春田さんのスマートフォンをかっちゃんに見せていた。
「じゃ交番とかに届けなくちゃね」
「届けたらしいんですけど、なんか心が持つよう言われたみたいです」
「心ちゃんが?…そんなことあるんだ。てっきり警察が持っているのかと」
「あたしも思ったんですけどね。
それにこのスマホ、見たことがない機種なんですよ」
「そういえば希和ちゃんのお父さんは携帯電話会社で働いていて、機種に詳しいんだっけ…?」
春田さんのスマートフォンを持ち、不思議そうな顔をするかっちゃん。
どうやらわたしは希和だけではなく、かっちゃんまで隠し事をすることになりそうだ。
未来人との通話のためだなんて、いくら希和より付き合いの長いかっちゃんでも信じてくれないよ…。
「落ちていた見たことがない機種のスマホか…。
心ちゃん、これ呪いとかない?」
「だ、大丈夫だよ!
現にわたし1ヶ月前ぐらいに拾ったけど、何も起きていないし!」
「心ちゃんが大丈夫そうなら良いのだけど…不安だね」
確かに呪いの携帯電話とかいう題名の怖い話はゴロゴロ転がっている。
それが呪いの携帯電話ではなく、ちゃんとした持ち主のいるスマートフォンだと知っているわたしは、かっちゃんの想像力に驚いていた。
「ともかく早く持ち主が見つかると良いね」
「うん。かっちゃんありがとう」
「心ちゃんは見ていて危なっかしい面があるから、ちょっと心配。
またいつでもうちにおいでね」
「ありがとう」
…傍から見ればわたしって危なっかしいのかも。
3年後の人間だと語る春田さんの話を簡単に信じている。
でも、初めてスマートフォンを拾ったあの日、電話ボックスの中に春田さんがいなかったのはこの目で見た真実で。
あんな体験をしてしまったのだから、あっさり信じているのかも。
希和に言われたから…。
このスマートフォン、後日持ち主が見つかって返ったってことにしておこうかな。
また希和に写メ撮らせてなんて言われたら大変だから…。