酔 恋 -スイレン-

「そう言えば、なんでまだ残ってるんだ?」

「あぁ・・・友達待ち、です」

「彼氏だな」

「・・・早すぎですよ、先生」

そう言って顔を赤らめる仁科。

これは相当ラブラブなやつだな

「いいなぁ、ラブラブで」

「ラブラブっ、なんかじゃ・・・!」

さらに顔が赤くなる仁科。

「ははっ、悪い悪い」

俺がおどけたように謝ると、

もう・・・と、また顔を赤らめる。

「彼氏、部活か?」

「はい、バスケ部なんですっ!・・・・・・あ、」

言ってしまった、と言わんばかりに口を両手で抑える仁科。

・・・わかりやすすぎる。

「かっこよすぎて口が滑ったか?」

「・・・っ、」

「ふはっ、いつでも聞いてやるぞ?ノロケ話」

「っ、のろけませんよっ・・・!」

「さぁどうかなぁ。聞けば口から出てくるんじゃないか?」

「・・・じゃあ聞かないでくださいよ」

「生徒のことを知るのも教師の役目だ」

「わっ、そういうことに使っちゃいけないんですよっ?」

「それは教師の自由〜」

「もう・・・」

今日の橘といい、仁科といい、ホームルームのときのクラスの雰囲気といい、俺はいいクラスを持った気がする。

仁科が顔を赤らめている間、そんなことを考えていた。

と、そこに。

『先生方、職員会議を行いますので職員室にお戻りください』

「おっと、職員会議だった。じゃあこのハンカチ、明日返すな?また・・・放課後にしよう」

「普通に渡して朝のことバレたら困りますもんね?」

顔に書いてありますよ、と笑って言う仁科。

くそう・・・隠しきれなかった。

「教師をからかうな〜」

「ふふっ、じゃあわたし、明日も放課後ここにいると思うので、そのときにお願いします」

「おう、了解」

そう言って足早に教室を出て、職員室へと戻る。

なんか、おしとやかな生徒だ。

黒い汚れの部分なんて、一切なさそう。

初めてあんなに長く話して、そんな印象を持った。

そして、俺の頭の中には

ふふっ、と小さく笑う彼女の笑顔が染み付いていた。

「先生と生徒・・・仲良く話せる、なんてのもいいな」

そんなことを呟きながら職員室の扉を開ける。