酔 恋 -スイレン-

教室を覗くと、そこには

自分の席に座って、頬杖をついて窓の外を眺める彼女。

───キレイ・・・

横顔を見て、不意にそう思った。

生徒を見てそう思ってしまうなんて世間一般からしたら問題なのだろうけれど・・・。

でも、すごく純粋なのだろうと。

汚れのない心を持っているのだろうと。

そのような生徒なのだろうと、そう思った。

「・・・じゃねぇ、謝りに来たんだった」

顔と名前がわかり、会える範囲にいる人ならもう一度ちゃんと謝るのが筋だろうと思い、

もし彼女がわからなかったときのためにハンカチを手に持ち謝りに来たのだ。

もう帰っているかもしれないとも思ったけど、残っていてくれてよかった。

「────仁科、」

俺がそう呼ぶと、彼女は驚いたようにこちらを振り向いた。

「あ、────・・・朝の弱い結城先生だ」

そう言って、ふふっ、と笑う仁科。

「あのな・・・、その呼び方やめろ」

「ふふ、冗談ですよ
でも、わたしの名前もう覚えたんですか?」

「いや、さっきちょうど名前を覚えようとがんばってたとこだったんだ」

「そうなんですか、覚えられました?」

「まだ1回目だからなぁ。何回も何回もしねぇと覚えらんねぇよ」

「・・・覚え悪いんですね」

「・・・イタいところをつくな」

「あ、何か用だったんですか?」

そんな会話をしていると、仁科が本題に話を移してくれた。

「そうだそうだ、・・・これ」

「あ、ハンカチ」

「ありがとうな。今日帰って洗濯してから明日返そうと思ってたんだが、会えるか不安だったんだよ。こんな近いところにいるとは思わなくて」

「大丈夫ですよっ、わざわざ洗濯までしてくれるなんて、嬉しいです」

「・・・その代わり、っていうか・・・」

「なんですか?」

「朝のことは・・・、コレで」

コレ、と言うと同時に、人差し指を自分の唇に当てる。

「んふふっ、了解です」

笑って、了解です、と言うと仁科は、言い終わってからまた小さく笑った。

せっかくだから自分の生徒をもっと知る機会にしようと、

俺も仁科が座っている前の席に座る。

「生徒にあんなところを見られるなんて、大失態だな」

「大丈夫ですよ?変なんて思わないですから」

「本当か?」

「本当ですっ!朝弱いのはわたしもですよ」

笑って言う仁科につられて、俺も笑う。

「ふはっ、そうかそうか、なら、今日はたまたま早く目が覚めて電車に早く乗れた、ってやつか?」

俺がそう言うと、驚いた顔をする仁科。

図星だな、これは。

「なんでわかるんですか?」

「俺もたまにそういうときあるんだよ、今日ほ本当にやばかったんだけどな」

「似てますね?」

"先生と、わたし"

付け加えてそう言う仁科に、確かにそうだな、と笑ってこたえた。