『聞こえるのは当たり前よ。

そう聞こえるように言ったんだから』



そう言いながら、自分の持っていた花火を快斗君に向けて、翠が笑う。


翠に花火を向けられた快斗君は、慌てて翠から距離をとり、遠くから講義し続ける。



『快斗、煩え』


そんな快斗君に、花火を片手に持ちながら呆れた顔で行った煌君を、快斗君が睨みつける。



……きっと、鬼‼︎ とか、朝倉双子め‼︎ とか、思ってるんだと思うけど。



私でもわかるんだから、煌君と翠に分からないはずもなく。



『文句がありそうね⁇ 快斗』


『……何』



案の定、朝倉双子にいじめられ始めた快斗君が私に助けを求める叫び声をあげるのを聞いて、3人に近づいていく。



『栞莉チャン⁉︎ 助けに来てくれたのはいいけど、花火は置いてきてよ!』



快斗君の悲痛しな叫びに、自分が花火を持っていることに気づく。



『丁度いいじゃない、栞莉』



『翠? 顔がものすごく何かを企んでる顔してるんだけど……⁇』





危機を察して、花火を翠から遠ざけるために、花火を持っている手を後ろに持っていく。



『危ねえ……‼︎』



後ろに持ってきた花火が当たりそうになったのか、声をあげた煌君が私の手首を掴んで花火を取り上げる。



『私の花火っ!』


『お前は危険だ』



私の花火をみんなから遠ざけてどこかに放り投げた煌君の背中を叩く。



そんな私の抗議をお得意のスルーでかわした煌君が、私の方を見て口角を上げた。



『……っ、本当むかつく!』



丁度、日付が変わった時間帯。



夜の学校で花火をするなんて、今までからは考えきれなかったけど、いい思い出になった気がする。



8月





夜の学校に、私達の笑い声が響き渡る。



新たな気持ちを知った、夏休みだった。