「今日は体調よさそうね、安心したわ。
ここのところ、ずっと苦しそうだったから」
そういって花瓶の水を替えているのは、私の母だ。
優しくてほがらかで、笑顔の絶えない自慢のお母さん。
「今日は仕事ないの?」
「んー⋯、そろそろいかないと駄目ね」
私の病室に掛けてある時計を見ると、短針が11と12の真ん中辺りで少しずつ動いていた。
⋯もうそんな時間か。
お母さんは大体、9時に病室に来てくれる。
毎日って訳にはいかないけど、時間があるときには必ず顔を見に来る。
────────でも、やっぱり寂しい。
いくら話しても
いくら笑っても
いくら頭を撫でてもらっても
その手が離れた瞬間、ドアの向こうへと消えてしまうことが、とても。
17歳なのに、子供っぽい?
そろそろ親離れするべきだって?
それは無理だ。
病気というのは身体を蝕んでいくだけに留まらず、心までもを弱らせてしまう。
いわば、【情緒不安定】になる。
訳もわからず泣き叫んだり、何の前触れも無くイライラしたり、いきなり嘔吐してしまったり。
心の病気、とでもいうのかな。
だから私は、お母さんに笑顔で
「仕事いってらっしゃい」
なんて言うことはできない。
毎回毎回、「行かないで」とせがんでしまうんだ。


