少しの間があって、相変わらず背を向けたままの佐渡さんはようやく口を開いた。
「嘘じゃない。本気だ。」
その声は、はっきりと、まっすぐで。
『嘘じゃない』
それは、求めていた答えのはずなのに。
それでも、納得するにはまだ足りない。
「区役所辞めるってことですよ?」
口に出すと、その重みに改めて気づかされる。
「ああ。」
「ああって…。」
「公務員の仕事も嫌いじゃない。それでも、物足りなさはずっと感じてたんだ。」
「物足りなさ?」
「成功することよりも失敗しないことが大事とされる世界で、このままただ仕事をこなしていくことに疑問は持っていた。」
そんなこと思ってたんだ…。
始めて聞く佐渡さんの本音に少し驚く。
「それに、櫻木製薬は大学のとき目指してた会社なんだ。
まあ、入社試験は面接で落ちたんだけどな。」
「え?」