「菖蒲、お前は今まで一度も何かをやりたいと強く言ったことがなかった。まして、私の反対を押し切って家まで飛び出して行くなんて思いもしなかった。
『仕事を続けたい』というお前の気持ちは尊重してやる。
だから、お前も我が社のためにこの結婚を承諾して欲しい。」
「『だから』って…。」
「お前がこの結婚を快く思わない気持ちは分かる。
だが、それを認めると我が櫻木製薬は跡取りを失うことになるんだ。
何故か親戚連中は女ばかりだし、うちの会社を任せてもいいと思ってたお前の従兄弟の智裕君はいつの間に自分の会社を立ち上げてしまった。もう、お前が会社を継ぐか婿をとるしか道はないんだ。」
眉を寄せ申し訳なさそうにそう言う父に、もう反抗することができなかった。
櫻木製薬は、母の父、その父が立ち上げた小さな町の薬屋さんから始まった。
それを母の父が大きくし、父が守り続けてきた。
櫻木家で代々守ってきたこの櫻木製薬を、私が潰すなんてことできない。

