隣の部屋と格差社会。



それなのに。



彼女の口から『好きだ』という言葉が出てきたとき、咄嗟に『ごめん』と口を突いていた。


自分でもその拒絶の言葉に驚いたが、あとから気づいた。


防衛反応が働いた。素直に嬉しかったからだ。


長らく遠ざけていた幸せが目の前にあって、なおかつ両手を広げて『飛び込んできて下さい!』と言っている。


そんな中、ちらつくのはかつての親友 恵吾の顔。


『俺に何かあったら美奈子と子供を頼むぞ』と、酒の席で冗談めかして言った声。


あの夜、あの場所に恵吾を呼び出さなければ。

いくら考えたって現実は変わるわけがないのに、未だにその思いが頭から離れない。


俺が殺した。


そんな自責の念が身体から離れない。