見合い当日の日曜日。
たまたまお互いの部屋の前で見かけた彼女は、小綺麗な格好をしていて、見合いに行くんだと悟った。
正直、驚いた。
行かないもんだと思ってたからだ。
逃げてばかりもいられない、とマンションの廊下を颯爽と歩いて行ってしまう彼女に、なぜか苛立ちを感じる。
いつもは泣きついてくるくせに。
気づいたら車のキーを手に部屋を出ていた。
櫻木製薬の令嬢。
彼女がその立場に居ることを実は知っていた。
彼女が区役所に来た日、世帯主 櫻木 歳三の名前に覚えがあったからだ。
櫻木製薬は、大学のときに幾つか受けた企業の一つだ。
当然ながら現社長の名前くらいは知っていて、彼女の話からそうではないかと思っていた。

