「幸せについて考えてました。」
正直にそう答えると、やっと佐渡さんが振り向いてくれる。
「また深いテーマだな。」
突拍子もない答えに少し驚いた様子の佐渡さんは、何かを考えるように顎に手を掛け近くのベンチへと腰を落とした。
「幸せ、か。」
小さく呟いたその言葉は、少し冷たい澄んだ空気の中に溶ていく。
『幸せ』というワードを聞いて、佐渡さんの頭に真っ先に思い浮かべたものはなんだろう。
「佐渡さんにとっての幸せってなんですか?」
ああ、思ったことをすぐに口に出したらダメだって晴日先生に言われたのに。
「美奈子さんと恵美ちゃんを一生守って行くことですか?」
どうやら私は、頭と口が直結しているらしい。
こんなことを口に出したら、もう後戻りなんて出来ないと分かっているはずなのに、止められなかった。

