隣の部屋と格差社会。




「菖蒲先生は竜一君のこと好き?」

「…はい。」


本日2度目となるその質問は、心の奥にすっと入り込んできて、素直に答えることが出来た。


「私はね、大好きな恵吾と結婚できて、恵美を授かって、育てることができて。
辛いこともたくさんあるけど、幸せなの。
結婚がすべてとは言わないけど、竜一君にも大事な人が出来たら嬉しい。
私たちに縛られたまま人生を終えて欲しくないの。」


生まれてきた恵美ちゃんを一度も抱きしめられなかった恵吾さん。抱きしめさせてあげられなかった美奈子さん。
抱きしめてもらえなかった恵美ちゃん。


突然の不幸な事故で引き裂かれた家族は、今まで私が想像もできないような辛いことがたくさんあったと思う。


それでも、今こうして目の前にいる美奈子さんはとても幸せそうで。

それは、恵美ちゃんも同じ。

保育園で居残りをしているときは、やっぱり少し寂しそうだけど、ママがお迎えに来てくれたときは、いつも飛びっきりの笑顔で幸せそうだ。