好きなのは
変な雑貨屋で買った
チョコレート味の歯磨粉だった。







ありふれた矛盾を


口の中でかき混ぜて




吐き出したら



磨く前と変わんない気がした。





でも、明らかに
私の病気のリスクは減るわけで







そんな魔法みたいな出来事を

私は好んでいたんだろう。












ネオンの光が月から漏れ出して




夜は危ないって皆が言うから






私は





空を見なかった。








でも本当は

夜は凄く素敵なこと。










知ってたんだよ、























造花は


なんであんなに綺麗なのに
美しくないんだろう。






生きてないからだね




って、



生命に感嘆したのは
解答としては少しお門違いな気もした。






美しくないのに

綺麗なの。





それはまた、



ありふれた矛盾で。







香りのしない花は
枯れないから綺麗なだけだった。







じゃあ


不老不死は
綺麗だけど、美しくないんだね。








スケッチブックには



町が描かれて







おかしいよ





って笑う君に













このビルだらけの
町は






おかしくないって




本気で思ってた。












電車から見えた
蛍光灯の光の粒が










生命の居所を示して










たくさんの光に








空っぽの心は満たされた。















おかえりの音が







家から死んで









もう何もなくなったあと。














カーテンから漏れ出した


世界は















もう無くならない


夜景で。









綺麗で、

そして、美しいんだ。











また、



矛盾だよ。

















子供の頃好きだった


歯磨きの味が口に広がる。























もういちど





ただいま






って言ったけど。













やっぱり返事はなかった。
























ただ。




窓から吹き抜ける風が

カーテンをパタパタと波立たせる音の









その奥から


かすかに



































あの雑貨屋の



騒音が










聞こえた気がした。