夢で会いたい


「結婚したなんて冗談だったんじゃないかってくらい、これまでと変わらずに彼は私に会いに来たの。あんまり普通だったからつい私も流されてズルズルしちゃって。でも、結婚は本当だった。職場で彼の結婚が噂になって、友達の一人が教えてくれたんだ。それからはもうあっと言う間に広がった。彼のことをおおっぴらに言ってたわけじゃないけど、『御曹司に捨てられた』『良家のお嬢様に対抗して負けた』って話題はみんな好きだったから。最悪なのは、彼とまだ続いていたことだったんだけどね」

ちょうどその頃、友人の小雪が結婚した。
恵まれない恋愛を繰り返して傷ついて、やっと出会えた大好きな人と短期間で入籍したのだ。
幸せそうな声で報告を受けて、本当に嬉しかった。
嬉しかったのに、羨ましい気持ちが強くてドロドロとした感情も同時に湧き上がった。

小雪の相手はお金持ちじゃない、ただの一消防士。
申し訳ないけどイケメンでもない。
私からみたらどこが惹かれるポイントだったのかわからない。
蓼食う虫も好き好きってやつなんだと思う。

それでも彼は小雪だけを愛している。
堂々と、誰にはばかることもなく二人で一緒にいられる。

真幸にどんな長所がどれだけあっても、そんな基本的なことが欠落しているのだ。
普通の恋人であれば愛を深める二人の時間も行為も、もう私の心をすり減らすだけだった。

「彼に別れようって伝えたら『なんで?』って言われた。結婚してる人とは付き合いたくないって言ってもわかってもらえないの。そうなって初めて彼の歪みに気づいた。逃げようとしても絡めとられる毎日は、ほとんど恐怖だったよ」

拒んでも拒んでも、真幸は私が彼を好きなんだと疑わなくて、「どうしたの?何かあった?」って笑う彼が怖くなってきた。
半ば犯されるようにして抱かれることが続いて、諦めて受け入れるようになってしまった。

「もう、逃げるしかないって。彼は東京を動けないから距離さえ取れれば逃げられる。だから仕事も辞めたの」