トモ君がスッとしゃがんで私の膝にやさしく手を触れた。
ガーゼの上からだけどタイツは捨ててしまったから生足だ。
いつもだったら「こんのセクハラ男!」ってギャーギャー騒いだところだけど、手から伝わってくる気持ちにいやらしさを全く感じなかったから拒否できなかった。
「もしかして、必死に本を守ってくれたのは僕のため?」
聞いたことのないくらい甘さを含んだ声だった。
「・・・なんでよ。あんたの本なんて全然ちっとも狙われてなんかいなかったよ」
「そうだね」
「オ、俺っ!ちょっとタバコ吸ってくる!」
店長が狭い部屋を小走りで出ていく。
忘年会で和田君が吸っていたタバコの煙にゲホゲホ言っていたこと、私は忘れてませんよ、店長。
店長が出ていったことにも気づかない様子で、いやそもそも店長がいたことすら気にしていなかったトモ君は、私の膝を見つめていた。
「きれいな脚なのに」
「あんたのものじゃないから文句言われる筋合いはない」
「痛い?」
「まあね」
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
というなり、ふわんと私を抱き上げた。
「うわわわわ!ちょっと何してるのよ!降ろして!」
「両足これじゃ、歩きにくいでしょう?まだ痛いみたいだし」
「少しくらい痛くたって平気!長距離歩くわけでもないんだから!」
「いいから、つかまってて」
無視してお姫様抱っこのままバックヤードを出ようとする。
ひょろひょろの体してる割に足取りは安定している。
思えば、お米1俵って60kgだっけ。
1袋でも30kg。
私くらい楽に持ててもおかしくなかった。
「やめてやめてやめてやめて!こんな格好で人目にさらされたくない!ケガよりずっとダメージ大きいから!おーろーしーてー!!」
あまりに私が暴れるからむしろ危険と判断したようで、トモ君はしぶしぶながらゆっくり地面に降ろしてくれた。
私の荷物は全部トモ君が持って、反対の手で私の手を引く。
「転ばないようにね」
駐車場は目の前だし、店の中だってそれほど危険はないのに、トモ君の雰囲気に押されて手をふりほどくことができなかった。



