全国規模の大きな書店ではどうか知らないけど、地方の中規模書店では万引きが命取り。
ただでさえ活字離れと電子書籍、リサイクル品の販売、インターネットの普及などで書店の売り上げは落ちているというのに。
しかも書籍は返品が可能だけど仕入れ原価が7割と高いから、一冊盗まれても厳しい。
そのことで店長を中心にアルバイトも見回りを強化するなど、できる対策は立てて頑張っているところなのだ。
男はこのままでは無理と判断したようで、コートに食い込ませた私の指をはずしにかかった。
私がいくら力を入れても、男の人にかなうはずはなく、指は剥がされてしまった。
「北村さん!」
工藤さんの声がしたとほぼ同時に、私は床に投げ出された。
「あ!待て!」
店長が追いかけていく。
あとは、おまかせします。
投げ出された本を拾い集めようと体を起こすと、工藤さんが悲鳴を上げた。
「北村さん!血ー!!血が出てるー!」
「へ?」
そういえば痛いって思ったな、と膝を見てみると、両膝ともタイツが擦り切れてごっっそり皮が剥けていた。
床には血が引きずられた形にベッタリついている。
ああー、結構グロテスク。
「すみません。今掃除しますね」
「そんなことより手当てが先でしょ!立てる?」
「見た目はちょっとあれですけど、ただの擦り傷ですから大丈夫です」
私がバックヤードに引き返そうとしていると店長も外から戻ってきた。
「ちょっとこっちが引くくらいがむしゃらに逃げられて捕まえられなかった。確認もしないで道路を横断されたからさ。車来なくて本当によかったよ」
「追いかけて事故で死なれたりしたら大変ですからね。結果的には未遂だし。北村さんも、気持ちは立派だけどケガするほど無理したらダメよ」
「はい。すみません」



