えっ!?お会計は!?
あまりに堂々としているから、つい見送りかけた。
いや!あれ万引きだ!
そう認識した途端に体が動いた。
内側のドアは抜けられたけど、風除室(雪国では冷気と風の流入を防ぐのため、ドアが二重になっています。ドアとドアの間のスペースを風除室と呼びます)で追いついた。
とにかく止めなきゃ!と必死で男の腰に抱きつく。
「待って!お会計は?」
男は「うわっ!」と驚いた声を出したけど、引き返すつもりはないようで、私をふりほどきにかかった。
ぶんぶん揺すられながらも男のコートに指を食い込ませてしがみつく。
うーーーーー、私一人じゃ絶対無理ーーーー!!
「店長ーーーっ!!工藤さーーーーん!!」
必死で叫んだ声の半分以上は男のコートの生地に吸い込まれている。
いまいち届いていない。
「店長ーーーーーーーーっ!!工藤さーーーーーーん!!」
コートから顔を放して声が響くように叫んだ。
大きな声が出たせいで男は余計に焦ったようだ。
本を投げ捨てて私を引き剥がしにかかる。
投げ出された本が目に入った。
今週発売されたばかりの人気漫画ばかり!
おのれ!売れ筋ばっかり!どうせならトモ君の本も盗めよ!
激しくブンブンと体をゆすり、私の頭をグイグイと押してきた。
私もだんだんずり落ちてきて膝をついた状態で不本意ながら男のお尻に顔をつけた状態。
男は必死に逃げようと私を引きずったまま足を進める。
痛い痛い痛い痛い痛い!!!!
でも、離すかーーー!!!



