わかりやすいところにあるから、アパートの場所は知っていた。
「あ、人住んでたんだ」っていうような古い建物。
この町に高級マンションなんて存在しないから元々期待なんかしていない。
『まあ!素敵な夜景!(人口が少ない上に早寝だから夜景なんて存在しないけど)』
『町を一望できるからね(土地だけは広いから本当は全体なんて見えない)』
『リビングも広いし、おしゃれだしモデルルームみたい』
『3LDKだったかな。寝に帰るだけだからあんまり使ってないけど』
『どうりでちょっと生活感がないなって思いました(結構じろじろ見てたこと暴露しちゃった)。ちゃんと食べてますか?』
空っぽの冷蔵庫を覗いたあと買い出しに行き、手料理をふるまう・・・なーんて妄想(やだやだ。不覚にもちょこちょこ現実が挟まってしまった)でもしてないと、へたりこみそうだ。
汁物もあるせいでやたらと重い紙袋。
現実はこの紙袋をボロアパートに運ぶところなのだ。
でも実際にモデルルームみたいな部屋での生活ってどんな感じなのかな?
真幸の高級マンションに何度か行ったけど、トイレブラシはあるし、ゴミ袋はあるし、家電の裏には埃が溜まってるし、生活感はたっぷりだった。
生活感のない部屋を維持するためには掃除が欠かせない。
それ自体がすでに生活感たっぷり、という矛盾はどう解決するのだろう?
やっぱりハウスキーパー?
現実逃避していたはずが、超現実的な思考に陥っていた。
そして現実感たっぷりの二階建てボロアバートが見えたあたりで、向こうから走ってくる作業着姿の人影。
「コートくらい着てくればよかったのに。寒くないの?」
「慌てて出てきたから。走ったし平気だよ。あ、荷物持つね」
はー、やっと楽になった。
手にくっきり赤い線が入るほど重かったのだ。
「芽実ちゃん、うちでご飯食べるんだよね?」
「その中に私の分も含まれてるの。何?嫌だった?」
「嫌じゃないよ!全然!でも、その、なんていうか最近は寝に帰ってるだけだったから・・・」
おお!さっき脳内で聞いたセリフだぞ。
トモ君は一階の一番手前の部屋のドアを恥ずかしそうに開けた。



