「・・・・・・あんたって有名人だったの?」
「いや、そんなことはないと思うけど」
「芽実ちゃん、一体どういうこと?」
「知らないよ。うっかりついてきたこの人を中島さんが引っ張ってきちゃったんだから」
「真柴さん?米田さん?すみません。中島さんは悪い人じゃないんですけど、ちょっと変わったところがあって」
「あんた名前がいっぱいあって紛らわしいよ」
「本名とペンネームの二つしかないって。中島さんは僕が作家だからって、きっと気を使ってくださったんでしょう」
(芽実ちゃん、もしかしてこの人がストーカー?)
(そうだよ)
(話と違っていい人そうじゃない。なんだか仲も良さそうだし)
(仲なんて良くないよ!今猛烈に戸惑ってる!)
「芽実ちゃん。僕は迷惑にならないように食べたら帰るから━━━━━」
「もう十分以上に迷惑だよ!」
誰も彼もが混乱する中、事態を招いた張本人が息を切らして帰ってきた。
「すみません!お待たせしました!あの━━━━━サインいただけますか?」
どうやら中島さんは書店に走っていたらしい。
ビニール袋から『一握の米』とサインペンを取り出してトモ君に差し出した。
「え?あーはい。なんか、すみません」
パリッと音をさせながら本を開き、その真新しい本にキュッキュッと書き込む。
『米田朋策』
うーーーん。やっぱりそれはサインというより署名だな。
しかもあんまり上手じゃない。
サイン本というよりは自分の持ち物に名前を書いただけに見えるそれを、中島さんはうやうやしく受け取った。
目が輝いている。



