使い回したメールの打ち終わりを待って、真由は話しかけてきた。

「消防士って市役所職員だよね?うまくいったら芽実ちゃんはあっちに住むの?結婚前提ならずっと遠距離ってわけにもいかないじゃない?」

そもそも小雪が念頭からはずれていたのも、そこに原因がある。
彼女は隣県の県庁所在地に住んでいるのだ。
ここからだと車で高速を使って3時間ほど。
ちなみに電車だとやたら遠回りをするから新幹線を使っても時間は変わらない。

真幸から逃げるために一時避難として美弥子さんの家に住んでいるけど、私はこれからどうするつもりなのだろう。


「うまくいったら引っ越すかも。今いる町じゃ就職先も満足に探せないもん。せめてここくらい都会だったらいいのに」

「都会って、ここが!?」

真由は大袈裟なまでに目を見開いて周囲をぐるっと見回した。

「田んぼや畑しかなくて、窓にカエルがはりつく生活してると、ファストフード店があるだけでもう都会だよ」

「ついこの間まで世界の大都市東京に住んでたくせに」

「東京ねえ。今の私にはシリウスくらい遠くに感じるよ」

「あ、シリウスって結構近いよ?ポラリスくらいにしておいたら?」

「あーやだやだ。大友先生の影を感じる。あんたの旦那からしたら人類が現れたのだって『つい最近』じゃないのよ。なにもかも宇宙規模にしないで」

真由の旦那様である大友先生は高校で地学を教えている。中でも星を専門としているのだ。
毎日天文学的数値を相手にしてるから一般人と感覚がズレているんだ、きっと。

そのくせ真由との9年ぽっちの歳の差を気にしてうじうじしてたとか、意味わからん。

年の差、住む場所、仕事・・・恋愛するって狭き門だなあ。
あ、顔もね。