夢で会いたい

・・・と、ここまで考えて思い至った。

あれ?私もこの人の名前知ってる。

真柴朋晴。
私より4つ年上の32歳。
作家として5冊の本を世に出している。
ちなみに独身、彼女なし。
美弥子さんの情報を鵜呑みにするならモテる。
いや、最後の一文は個人の主観が過ぎるのでカット。


「芽実ちゃんがここで働いているのもみんな知ってるし、この前道路で脱輪したことも広まってる。悪意はなくても何でも伝わっちゃうんだ」

「それはよくわかった。私もあなたの名前知ってるし、お互い様だとも思った。だけど、なんで『芽実ちゃん』なんて呼び方するの?みんながそう呼ぶから?」

お客様に対する態度をすっかり崩してしまったのに、気にした様子は一切ない。

「だって昔からそう呼んでたからね」

「・・・昔?」

「小学生くらいまでは芽実ちゃんがこっちに来た時、何度も遊んだよ?覚えてないとは思うけどね」

「幼なじみってこと?」

「うーん。近所の子どもたち7~8人でごちゃごちゃ遊んでたから〈幼なじみ〉なんて関係とは違うかな」

そういえば、小さい頃は〈近所のお兄ちゃんお姉ちゃん〉とよく遊んだな。
地元ではそういう交流がなくて、美弥子さんの家に来るのが楽しみだった。

その中にいたということなのか。
慣れ慣れしさの理由もわかった。

「送るから帰ろう」

そして『待ってる』の理由はこれなのね。
近所の妹みたいな存在が、たまたま仕事が終わりそうだったから送ってあげよう、と。
すべて納得。

とは言えこちらはよく知りもしない男性が相手。
そんな人の車に安易に乗るのはいかがなものか。

だけど電車代数百円は浮く。
現在フリーターなわけだし、節約は大事だな。
そもそもこの人を〈男〉として意識するのは腹が立つ。

ということで、

「よろしくお願いします」