夢で会いたい


まだ研修中の私には残業なんてあるはずなく、お客様からの注文に関して少し調べものをするという工藤さんを残して店を出た。


さて、どうしたものか。

〈トモ君〉の言葉を忘れたわけではないけれど、約束というにはあまりに一方的。
しかも意味不明。
よし、とりあえず無視だ。

頭の中でぐるぐる考えたことなどおくびにも出さず、迷いない足取りで駅に向かう。

数歩進んだだけで相手は動いた。

「ちょっと待って!芽実ちゃん!」


足が止まったのは『ちょっと待って』に反応したのではない。
その後の発言に対してだ。

『芽実ちゃん』だあ!?

とんでもない慣れ慣れしさのおかげで無視し切れなかった。


行く手をふさぐように立ちはだかった彼に、失礼は承知で質問した。

「なんで名前知ってるんですか?」

店で付ける名札は名字だけ。
レシートにだって印字されていない。

一瞬ものすごく意外そうな顔をして、すぐに「ああ」と何か納得した。

「狭い町だから噂はすぐに伝わるんだよ。『小田切さんの家に東京から芽実ちゃんが帰ってくる』って君が来る前から聞いてたよ」

恐ろしい・・・。
感覚がまるで違うんだ。

ちなみに小田切さんとは美弥子さんのこと。
壁に耳あり障子に目あり、とは言うけど、この辺りでは壁は崩壊、障子は穴だらけということか。