夢で会いたい

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私の勤務は当面朝9時から夕方5時と決まっている。
というのは、教育係である工藤さんは主婦で、その時間帯だけの勤務だからである。
一人立ちできるようになれば夜入ることも増えるだろう。

書店で最も忙しいのが朝の品出しということもあって、一通りの仕事を覚えるまでは変わらないらしい。


ある日、何か特殊なことがあれば近くにいる人を呼び出す、という対処法だけを手に、私は一人でカウンターにいた。
簡単な整頓や物品の補充をしながら、お客様を待つだけの時間。

カウンターの前に人影が見えたので、下げていた目線を上げた。

「いらっしゃいませ」

営業用のほほえみに返ってきたのは、サンサンとした太陽のような笑顔だった。

「こんにちは」


〈トモ君〉は文庫本を一冊置いた。
それを受け取り、一度手を止めて頭を下げる。

「先日は助けていただいてありがとうございました。この前はお礼を言いそびれてしまって申し訳ありません」

「あ、覚えてたんだ」

「帰られた後思い出しました」

ピッピッとバーコードを読み込ませる。

「514円でございます。カバーはお掛けいたしますか?」

「お願いします」

「かしこまりました」

〈トモ君〉はポケットから千円札を出してトレイに乗せる。

「仕事は何時まで?」

ちょうどカバーを掛け終わって顔を上げたタイミングだったので正面から目が合った。

「5時までです。━━━━━千円、お預かりいたします」

〈トモ君〉は相変わらずニコニコと笑顔を浮かべているけど、この前までとは少し違う気がした。
なんとなく、信用できない。

「486円のお返しです。お待たせいたしました」

〈トモ君〉はおつりをじゃらじゃらとポケットに突っ込み、差し出された文庫本を手に取る。

「じゃあ、駐車場で待ってるね」

「━━━━━は?」

店ではお客様の去り際に「ありがとうございました。またお越しくださいませ」と言うことになっている。
が、すっかり忘れてただただその背中を見送った。