夢で会いたい

あれれ?
あの日焼けした感じといい、笑顔の輝きといい、車を助けてくれたお兄ちゃんだよね?
普通の服だと印象違っててわからなかった。

ちょっとぼんやりしているうちに、彼は私の横を通り過ぎて出口へと歩いて行く。

彼からおこった風がふわーっと私の後れ毛を揺らした。
土と水と、男の人の匂い。
胸がざわざわする。
これ、何かに似てる・・・。


お礼を言い忘れたことにようやく気づいて急いで振り返るも、彼はカウンターにいた店長に軽く会釈して店を出ていった。



彼を見送った店長が私のいるところにやってきて、平台を直し始める。

「北村さんって米田さんの知り合いなの?」

「米田さん?」

「今出ていった人」

「あ、米田さんって言うんですか?知り合いではありません。たまたま話し掛けられただけです」

「そっか。楽しそうに話してたからてっきり知り合いかと思った」

店長はさっさと本を並べ変えると、持ってきた色紙をうやうやしく置いた。

「それ、サインですか?」

聞いたのは、何を書いているかわからなかったからじゃない。

『サワハタ書店さま。応援ありがとうございます。米田朋策』

と中学生みたいな拙い字ではっきりと書いてあるからだ。
色紙に対してのバランスも悪い。

「うん。お願いして書いてもらったんだ」

確かに他にも作家さんのサインはいくつか並んでいる。
けれどどれももっとかっこよくて、いかにも〈サイン〉といった感じがする。

今持ってきたこれは「ここにゴミを捨てないでください」という張り紙と同じような色気のなさだ。


米田朋策・・・どっかで聞いたな。
あはは!「どっかで」ってここじゃない。
『一握の米』米田朋策!
直前に見たのにすっかり忘れてた。
やっぱり全然興味持てない!
・・・・・・あれ?

「店長。さっきの人米田さんって言いました?」

「米田さんだよ。これ書いた人」

店長は青黒い本を手に取る。


『ああ、やっぱり興味ないよね』


うわああああ!!しまったーーー!!
本人目の前にして失礼な態度をとってしまったよ!
助けてもらったお礼も言わず、私って人としてどうなの?

「北村さん、モップ振り回してないでレジに戻ってくれる?」

「はい・・・すみません」