駆け足で美和子ちゃんの隣へと並べば、当たり前のようなトーンで降ってきた言葉。

それはつまり、



「五十嵐涼にクッキーあげるのかって聞いたの!」

「ふ、フルネームやめてよ!しかも声が大きいから!もし誰かに聞かれたら……」


慌てて美和子ちゃんの口元を抑えて、キョロキョロと周りを見渡す。


……よ、良かった。

幸い、みんな私たちより先に調理実習室へ向かったらしく、廊下には人っ子一人いない。


「人に聞かれて困るくらいの相手ならさっさと諦めなよ!敵は多いんだよ?うかうかしてたら先越されるっての」


私の手を簡単に振りほどいて、やれやれと呆れたようにため息をひとつ零した美和子ちゃんは今日も手厳しい。


「……うぅ、美和子ちゃんの意地悪」



私だって、好きで涼くんに恋してる訳じゃないんだよ?

気付いたら、涼くんだったってだけで。


誰も好き好んで、あんな女子に大人気な競争率の高い、その上どんなアピールにも屈しないド天然くんを好きになったわけじゃない……。


ほら。恋心って、コントロールできないから。……って!今、私かなり名言ぽいこと言わなかった!?