「いいよ〜」


隣で美和子ちゃんがあからさまにソワソワし始めるのを感じながら、航に返事を返せばすぐにガチャッとドアが開いた。



「これ、お母様がお姉さま達に差し入れだって。近所のケーキ屋の新商品とか言ってた。あと紅茶」



お盆にのせられた美味しそうなケーキと、湯気がたった熱々の紅茶。


それを片手でひょいと私に差し出すから、慌ててシャーペンをテーブルに放り投げて受け取った。


両手で受け取ってもズシッと重いそれを、航のやつよくも片手で軽々持ってたな……。さすがに男の子だわ。



「航サンキュ〜。美和子ちゃん休憩にしよう!」




助かったとばかりに満面の笑みで休憩を提案すれば「まだ始めたばっかなのに」と美和子ちゃんは呆れ顔。



「にしても、俺らはスーパーで買いだめしてたお菓子で、花たちは新商品のケーキとか。母さんもひでーよなぁ」

「え?……俺らって?」

「あー、今日頼が来てんだよ」




ドキッ



航の口から出た『頼』って言葉に、なぜか私の心臓が少しだけ跳ねる。


……いやいや。ドキッて、なに?