「司っ!!」
「!おう。」

端的に呼ばれた名前に返事を返すと、パスされたボールを受け取る。
パスをしてきた信也についていたディフェンスが一斉に司のマークにつく。
司はそれをドリブルでかいくぐり、ゴール下に躍り出る。
ボールを持って

一歩

二歩、


三歩――と同時にふわり、持ち上げたボールはゴールの輪にぶつかり、そのまま網をくぐった。

その瞬間。

ピ――――ッ
試合終了の合図が響く。

「っしゃー!!」

司は盛大なガッツポーズを決めると、額に流れた汗を乱暴に拭った。

「やったな、司!!逆転だぜ!!」

信也が司に駆け寄ってくる。試合は、最後の司のゴールで逆転勝利を治めていた。

「俺の辞書に不可能という文字はない――っ」
「調子のんなよ。」

ごつ、と信也にこづかれる。

「ってぇ~!!お前、手加減しろよ!俺は今日の試合のMVPだろうが!」
「それをいうなら、あの場面で絶妙なパスをした俺がMVPだ。」
「まあまあ、ふたりとも…」

言い合う二人をやんわりと止めたのは歌織、バスケ部のマネージャーだ。

「二人でMVPってことでいいじゃない。信也くんのパスがなければ司くんはゴールできなかったし、司くんがゴールしなければ信也くんのパスは生きなかったでしょ」

ね、と人懐っこそうな笑顔を二人に向ける。

「歌織がそういうなら…なあ、司」
「ああ、まあ…」

歌織の笑顔に少なからず頬を染めながらそう答える。歌織は、部内でのちょっとしたアイドルなのだ。
司は、そんな歌織に恋心を抱いていた。

「さて、と。この後は打ち上げだよ!!…準決勝進出おめでと。」
「おう、ありがとな!!打ち上げって焼肉だったよな!!」
「そだよ。ほら、早く着替えといでよ。」
「っしゃ、司、いくぞ!!」
「わ、ちょ、待てよ!!」

焼肉、と聞いて喜び勇み、司をおいて走っていく信也。
司は歌織に「じゃ、後で。」と小さく言って、信也の後を追った。
そんな二人の様子に、歌織はふ、と小さく微笑んだ。