「喧嘩は僕が無神経だったし、病院は本当に悪かった。ごめん。これでおあいこってことに……なるかな」

「さあ、なるんじゃねぇ?」

渡は謝らなかったし怒らなかった。何にしてもすべてもう済んだこと、といった顔をして、僕の差し出した本を制服が覗くトートバッグにしまう。

ウェイトレスがコーヒーのお替りを注ぎ行ってしまうと、ようやく渡は口を開いた。

「あねなんだ」

「あね?」

よく意味が通じず聞き返す。渡はもう一度丁寧に答えた。

「俺の義理の姉なんだ。あそこにいたのは」

あそこ……病院で眠っていたのは渡の義姉なのか。

僕は頷いた。
そして、それきり何も言わなかった。渡もだ。

店内は明るく騒がしかったけれど、僕らの耳に喧騒は聞こえない。
ただ、窓の外を眺めて雨音を聞いていた。