防波堤と住宅地の間の道を進む。夕暮れ時の潮風が心地よい。

ふと、前方から誰か歩いて来るのが見えた。
近所の中学校のセーラー服。夕日に照らされ薄茶色に透ける短髪。

中学三年になる娘のつむぎであるのが遠目にわかった。

僕は名を呼ぼうと口を開きかけた。
伏目がちに歩いてくるつむぎが顔をあげ、僕を見つける。



その刹那だ。

僕の時間は瞬時に二十五年の時を巻き戻った。



渡だ。


僕の目前に渡がいる。


落ちていく陽光を浴び、あの日とまったく変わらぬ姿で。



勿論そんなわけはなかった。そこにいたのはやはり僕の娘だ。
しかし眼が……僕は狼狽し、まばゆい夕日に照らされたつむぎを凝視した。

つむぎの瞳は、渡とまったく同質のものだった。
くっきりとした二重。短いがきっちりはえそろった睫毛。
そして何よりあの懐かしい鳶色の虹彩。

眩暈がした。
渡、そこにいるのか。おまえはそんなところにいたのか。