「深空の気のせいだよ。僕は、きみのことしか考えていない」

「長いこと眠っていた私を目覚めさせてくれたのは、きみだと私は思ってる。入院中もお見舞いに来てくれたし、その後も一緒にいてくれた。でも、それは私への責任感でしょう?友達への同情でしょう?」

深空の大きな瞳には涙がたまっていた。今にも零れ落ちそうにゆらめくそれを拭ってやりたい。
しかし、深空は潤んだ瞳できつく僕を睨む。

「五年だわ。同情ならもうやめて。責任感ならここまでにして」

「深空」

「真綿でくるむように守られたって、ガラス越しに愛されたって、私は嬉しくない!私は恒と同じ人間よ。生きてるの!きみと同じ目線でいたい!」

深空の叫びが落日の住宅街に響く。涙がぱたぱたとアスファルトに落ちる。

歪んだ深空の顔。涙。

……僕はなんて馬鹿だったんだろう。

深空の言う通りだ。僕は結局、深空といることで親友を失った悲しみを埋めていたに過ぎない。

彼女に惹かれていたのは嘘じゃない。だけど、それ以上に永劫手に入らなくなった友情を探していた。
あわよくば彼女の中に欠片でもよすがを見つけられたらと思っていたんだ。

僕は最低だ。
愛してくれている深空が気付かないはずないじゃないか。僕の心の虚ろさに。

「渡、ごめん」

僕は口の中で本当に小さく呟いた。
深空には聞こえない声で。