「深空が生きていることは俺の罰だった。俺はあいつを殺し続けて、あいつは俺にそれを見せつけ続ける。でもあいつが死んだら、誰も俺を罰しない。恒、おまえといると俺は自分が罪人なのを忘れちまってなんだかいろんな夢を見る。旅に出たいとかさ。本当はそんな資格ないんだよ」

「暗いよ、その考え。センチメンタルすぎる」

「そうかもな。でも、俺は誰かにそう言われ続けたいんだ。安らかに眠るなと言われたいんだ」

渡の不幸な思考が、僕は悲しかった。
これが他の者なら、もっとあっさり「くだらない」と蔑んでやるんだろう。
だけど、僕には渡を引き止め、僕のいる場所に繋ぎ止めておく言葉を持っていないのだ。

また一方で、僕は冷静に渡の奥の本心を読み取っていた。

もっと単純な思考として、渡は深空に死んでほしくないのだ。
それが恋愛感情か肉親愛なのかは本人ももうわからないかもしれない。
それでも、渡は深空がこの世から消えていくことがたまらなく悲しい。

『僕がいるじゃん』

深空がいなくなっても、渡には僕がいる。親友が隣にいる。

そんな冗談とも本気ともつかない言葉が出かかった。
しかしいつも存外に真面目な僕は、そんな軽い言葉を言い損ねる。